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代々木忠プロフィール

理想の夫婦であるために

 彼女は6年間の交際を経て、同級生だった彼と結婚した。男は彼しか知らなかった。二人を知る多くの友人たちから理想のカップルと祝福されての結婚だった。

 

 結婚して4年、夫の浮気が発覚する。酒や煙草はもちろん習いごとも禁じる夫の言いつけをずっと守り、門限のある生活を続けてきた結果の出来事だった。浮気の証拠をつかみ、問いつめると、「おまえには関係ない」と突き放されてしまう。この一言が、彼女に離婚を決意させることとなった。

 

 夫婦には思いやりが必要だとか、やさしさがなければならないとか、「夫婦はかくあるべき」という規範のようなものが、世の夫の中にも妻の中にもきっとあることだろう。

 

 特に彼女のように、周囲から理想の夫婦と言われてしまうと、そのぶんプレッシャーも大きくなる。祝福してくれたみんなの期待に応えるような夫婦にならなければ、と思ったに違いない。

 

 だが、夫婦関係をうまくやっていこうと思った瞬間から、人はそうではなくなることへの恐怖と戦わなければならなくなる。自分が設けた規範に合わせるための努力が始まるのだ。そうなると、夫婦が心から戯れたり楽しんだりすることも、努力の前に犠牲にされてゆく。努力の上に初めて成り立つような夫婦関係が、果たして幸福と言えるだろうか。

 

 撮影前、彼女はセーラー服を一度着てみたいと言った。作品の中で、彼女は取りつかれたようにバイブを自分のアソコに突き立て、「私、ヘンタイなのーッ」と叫んだ。ときには野獣のような喘ぎ声をあげ、泣きわめき、何度も失神を繰り返した。

 

 私はその姿を見たとき、夫とのSEXでこうなりたくても結局なれなかった彼女の姿が目に浮かんだ。

 

『色即是空』より


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