今でも、美容室に行くと想い出す彼がいます。
もう十数年前、二十歳そこそこの学生だった私は、学生街で夫婦で美容室を経営している男性に他校の学生を紹介してあげると誘われて食事に行きました。
今考えれば、ただの口実だったのでしょうが、本気にしていた私は、学生さんが急用でこられなくなったと聞き、がっかりしていました。
「お詫びに今から、お店でトリートメントしよう、傷んだ毛先も整えるから」と、彼に誘われ閉店した夜の美容室へ行きました。
いつものように、大きな鏡に向かい椅子に座って髪をといてもらっていると、ふと、鏡の中の彼と目が合いました。
16歳も年上の、しかも既婚者なので、男性というより兄のように思っていましたが、
じっと見つめられて、いつもと違うとここで初めて気づきました。
彼の指は、髪先だけでなく耳やうなじをゆっくりとさすり始めます。
普段から耳が弱い私は、思わず「うっ」と声を出してしまいました。
誰もいない美容室に思いのほか大きく声は響き、ものすごく恥ずかしくなり、目をつぶると、「ちゃんと鏡を見なさい。ずっとこうしたかった・・・」と首筋にキスされました。
鏡の中の彼は、やはり私をじっと見ながら、耳や首を舌で愛撫しています。
そのままブラウスをたくし上げ、胸を愛されている間も、ずっと鏡を見ているよう指示されました。
その目に縛られたように、恥ずかしさと快感の中で抵抗はできませんでした。
下半身への彼の執拗な舌での責めで、何度も頭が真っ白になりました。
もう彼のモノが欲しくてたまらないのに、なかなか来てくれません。
待合用の大きな革のソファーへ移動し、焦らされて焦らされて、ようやく彼が私の中に入った時、「動いちゃダメだよ、まずは、体を馴染ませないといけないからね」と、ギュッと抱きしめられました。
「あぁ、これが大人のセックスなんだぁ」
と、経験も少ない子供だった私は感激して、彼の言うとおりそのままの体勢でいました。
冷たかった革のソファーが、人肌に馴染むまで5分ほどでしょうか、そろそろ動きが欲しいなと思った頃、よくよく注意してみると彼がゆっくりゆっくり、例えるなら、かたつむりが這うように自分の足を動かしながらピストンしようとしているのが分かりました。
「???」
よく分からず、私がぐっと腰を動かした途端、彼は果ててしまいました・・・。
そうです、大人のセックスではなく、彼はただ早漏だったのです・・・。
ものすごい前戯で期待した分、何だか消化不良ではありましたが、体調のせいだということで、後日数回チャレンジしました。
が、結果は同じようなものでした。
「30代の男はみんなこうだよ」と言われましたが、納得するふりしかできませんでした・・・。
この時はじめて、テクニックや気持ちだけではない、性の難しさを知りました。
その後、同年代の彼氏が出来、美容室の彼とは別れてしまいましたが、今でも美容室で好みの男性に髪をいじられると、すごく興奮した前戯と、何も知らなかった頃の自分がおかしく、懐かしく思い出されます。