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第84章 彼女の中の淫らな女

 今回は「お固い女性がビデオに出る理由 貴婦人コレクション 私の中の淫らな女が蠢くの」という作品を題材に、当時撮りながら僕が何を考えていたかも交えて書いてみようと思う。いつになく長い文章になるかもしれない。

 

 「スケベぇー、汁たらし女が~」。下半身を剥き出しにした女の股間を市原克也がいじくる。「もっと開くんや!」と股を押し開く。市原の執拗な言葉なぶりが続き、とうとう終いには「ベロベロ舐めて!」と女に言わせてしまう。

 

 テレビ画面に映し出される映像を見ていた女性、高梨さとみ(35歳)は、耳に指で栓をしてしまう。「そうとうイヤそうだね」と言って、僕はビデオを止めた。「こういう人は生理的にタイプじゃない」と言う。

 

 さとみはきれいな顔立ちで凛とした雰囲気をまとった女性だが、彼女のストライクゾーンはきわめて狭い。理想の男について聞いてみても、そんなヤツいねえだろうなぁと思えてくる。さて、どうしようか。

 

 ペニスを連想させる大人のオモチャを、何も言わずにさとみの前に置いた。「なに、これ~」と笑う。初めて見る様子だ。使い方を教えて、バイブの部分をクリトリスに当てさせる。しばらく当てていたけれど、「うーん、ぜんぜんよくなーい」とテーブルの上に放り出す。

 

 夫婦の性生活について訊いてみた。結婚6年で離婚したが、最後の2年間はセックスレスだったと言う。「友達に言われたこと、ありましたもの。『女として可哀相よね』って。またそれでショックなんですよ。私って可哀相なんだって」と笑うけれど、声は乾いている。

 

 ダンナさんとセックスレスになって「疼きとか、なかったの?」と訊いたら、「もう嫌悪だけ。気持ち悪い。同じ空気吸うのもイヤ」と顔を歪める。彼女の出演動機は「自分の殻を叩き割りたくて……」だった。しかし、彼女は何事にも否定的な反応しかしない。

 

 彼女は依存的であると同時に排他的である。ビデオに出て「自分の殻を叩き割りたい」と言うわりには、自分から淫らになろうという熱がまったく伝わってこない。プロの男優なら何とかしてくれるだろうと思っているのか、どこか他力本願だ。なのに、煮るなり焼くなりしてくださいって風でもなく、心の窓はしっかり閉じられ、鍵まで掛かっている感じである。

 

 僕は片山邦生と吉村卓を助監督に化けさせて、さとみを迎え撃つことにした。彼らを男優として紹介すれば、さとみはきっと抵抗なくセックスするだろう。けれども、強固な殻は微塵も割れることのないまま、ただビデオに出て男優とセックスしましたで終わるに違いない。

 

 それにひきかえ、助監督、つまりスタッフとセックスしてしまうのは、彼女にとって“やっちゃいけないこと”であり、やるとなれば本能が何かを越えてしまうことでもある。ここで重要なのは“彼女のほうからタブーを犯す”という仕掛けだ。

 

 助監督と化した2人は、メイク中のさとみに「もうシャワー浴びられました?」と身のまわりの世話から始める。作品には少ししか映っていないが、彼らには徹底して助監督の仕事をしてもらい、さとみにスタッフとしての彼らを印象づけた。

 

 「卓! 目かくしして!」「はいっ!」目かくしされて、さとみの視界が閉ざされる。そんな彼女に聞こえるように、襖をあけた隣室から女が悶えるビデオの声を流した。「どんなことしてるか、想像してみてくれる?」と僕。卓がペニス形のバイブをそっと握らせる。しかし、彼女はすぐにそれを布団の上に置いてしまう。

 

 さとみは親や社会が求める“いい子”をずっと演じてきたのだろうか。彼女の中には「あんなイヤラしいことしたい、こんな淫らなこともしたい」が澱のように溜まり、その秘めたる欲望は渦を巻きながら出口を探しているのではないか……。

 

 布団の上では、さとみの膝小僧の近くでバイブが音をたてて動いている。僕は「持ってて」と言った。彼女は仕方がないという感じでバイブを取り、自分の太腿の上に置いて握る。「あ~、いい、してぇ~」と切ない声が聞こえている。バイブの振動を感じながら、目かくしされたさとみの想像は、やがて淫らな妄想へと変わっていくだろう。

 

 頃合を見計らって、卓が太腿にそっと手を伸ばす。抵抗しないとわかると、ブラウスのボタンを外しはじめる。クローズアップでとらえたファインダーの中のさとみが生唾を飲み込む。口もとが緩み、胸もとが息づく。

 

 別室から望遠で撮っている僕のほうにも、さとみの切なそうな吐息が聞こえてくる。卓はさとみの勃起した乳首に舌を這わせ、焦らし、そして豊満な乳房にかぶりついて、唾液の音をたてながら舐めまくる。

 

 自分から腰を使ったことは一度もないと言っていたさとみは、卑猥に腰を動かし、「どこさわればいいんですか?」と訊かれれば、「ここ……私の」と卓の手を股間へと導き、自分からこすりつける。

 

 スタッフの卓を受け入れたさとみは、成熟した女の姿態で貪欲に快楽をむさぼった。快を求めて主導権を握ってしまった本能に、思考はまったく歯が立たないことを実証するような場面である。

 

 ところが、セックスが終わったあと、さとみはずっと無言のままだ。「きょうはもっとイヤラしくなれそうだね」と僕が茶化すように話しかけても、何か別のことでも考えているのか、返事がない。なんでスタッフなんかとしちゃったんだろう……。ひょっとしたらそんなことを考えているのかもしれない。

 

 さとみが別棟にある風呂場に向かう。カメラを手にした片山が後を追う。助監督が事後の感想を聞くという設定である。ただし「風呂場でセックスを」というミッションが彼には与えられている。

 

 小一時間後、土間の引き戸があいて、下着姿の片山が帰ってきた。「ちょっと固い! 隙がないんですよ!」と照れ隠しの笑いを浮かべる。つまり、ミッション失敗ということだ。

 

 山荘は朝から雨がやまない。僕は風呂上がりのさとみに「卓がもっとしたいって!」と振ってみた。「ありがとうございます」と軽くいなされてしまう。殻はぜんぜん割れていない。

 

 けれども、彼女の中で何かが動いているはずだと僕は思っていた。セックスのあとの無言も、おそらくは自分との対話であり、まだ整理がついていないだけなのだと。そうでなければ、「卓がもっとしたいって!」と振ったとき、「もういいわ」と彼女なら言っただろう。

 

 そのまま時間が過ぎていく。雨脚の強くなった裏山を所在なげに眺めるさとみの表情にテロップが入る。

 

『男優、来ないのかしら』

そんなことを考えているのだろうか…

 

 雨がますます強まり、風も出てきた。据え置かれたカメラの奥で、片山が本気モードでさとみと向き合っていく――。

 

 夕方近くになって、さとみはまるで片山を弄(もてあそ)ぶかのようにして受け入れる。僕にとって、これはうれしい誤算だった。男優とのセックスをあきらめたのか、まるで別人のような大胆さを見せはじめる。

 

 片山のペニスを咥え、喉の奥まで突き立て、次には自らそれに跨って腰を振る。跨った上から唇を重ね、腰を揺する姿は激しくもあり、じつに妖艶だ。この人の人生で初めて見せる姿ではないだろうか。そしてこれが、したくてもできなかったことではないのか。ファインダーを覗きながらそう思った。

 

 すべてが終わって、片山と卓の正体を明かし、なぜそうしたのかも説明した。さとみに戸惑いと恥じらいの表情が浮かぶ。片山も卓も「セックスがしたい」という気持ちを素直に出してさとみと向き合い、男優の肩書きを捨てて自分を明け渡した。なにより彼らは最後まで真摯だった。

 

 彼らが先に山荘を去り、ぽつんと残されたさとみにカメラを向ける。「男の人に対して、どこかあったんでしょうね、男なんてみんな一緒。でも、それが違うんだなって。自分を出していけば、受け止めてくれる人がいるって……」。

 

 自分を出していけば、受け止めてくれる人がいる。依存と排他の対極にあるその思いは、彼女の殻が割れたからこその気づきと言えるだろう。東京まで車で送り、駅舎の雑踏に溶け込もうとする彼女の後ろ姿に、僕はテロップを入れた。

 

さとみさん どうぞお幸せに

 

 心を開かないと、人は幸せになれない。それを知っている片山と卓の気持ちを言葉にしたつもりである。