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女性に読んでほしいコラム


第78章 快楽のブラックホール

快楽のブラックホール

 2001年に撮った作品に「あなたの欲望満たします」というのがある。タイトルのとおり、出演する女性の欲望を現場で満たそうというものだ。

 21世紀幕あけのこの年、わが国のパソコン世帯普及率は50パーセントを超えた。かつてとは比べものにならぬほど膨大な情報を手にできるようになっていくわけだが、生活が便利になり、個人の自由度が拡大するなかで、人々の心に巣食う空洞もまた、広がっていったように見える。

 この作品の冒頭に、
 

生きている実感がないんです
そう言う人が増えてきた



 というテロップを入れた。出演しているのは2人の主婦。年齢は同じく32歳。

 1人目の静香は、今年になって夫とたったの2回しか会っていないと言う。というのも、夫は単身赴任中。そんな状況だから、いや、そんな状況なのにと言うべきか、何カ月かぶりに会ってもセックスはなく、もう2年半もしていないのだと……。

 静香の欲望を満たす相手は、平本一穂と吉村卓。卓が先に行く。はち切れんばかりの欲望から、久しぶりに咥えたオチンチンを静香はなかなか離そうとしない。「こっちがイッちゃいそう」と卓。早いとこ「入れて!」と言わせたいのだが、ねっとりとしたフェラが続く。

 やっと挿入の段になり、オチンチンが入ってくると「いい、いい、気持ちいいー!」と静香が乱れる。僕は「『こんなのしたかったの!』と彼に言ってあげな」と言ったのだけれど、彼女から出たのは「もっと、もっと、もっとしてー!」だった。

 表情も色っぽくなった静香を突きつづけていた卓が「出ちゃいそう」と言えば、「ダメー!」。平本はニヤニヤしながら成り行きをうかがっている。「やめちゃイヤ! イッちゃダメ!」という絶叫の中、卓が発射。

 卓が終わったところで入れたテロップは、
 

セックスと思い込んでいる営みは
パートナーの体を使った
マスターベーション



 この時点で400以上のビデオ作品を僕は撮っていた。その中には「淫女隊」もあったし、「胎内宇宙」もあった。彼女たちの真のセックスを見ていたからこそ、これはセックスではないと感じたし、テロップでそれを言わずにはいられなかったのだ。

 男優交代となったが、静香は平本の首に手をまわし、唇を合わせつづけている。キスだけで、早くも平本はビンビン。「こりゃー、きょう男優、足りないな」と僕。静香はその唇で次に乳首を責め、フェラへ……。しゃぶられながら、卓に向って平本が「これ、わかる! ヤバい」。彼は「もうしよ!」と静香をうながす。

 こうしてセックスが始まったのだけれど、結局「あー、出ちゃう! ごめんごめん!」と先に発射。果てた平本の下で、静香はまだ腰を動かしている。騎乗位になって、彼女が腰を動かす形でセックスが再開する。しかし静香がイク前に、またもや平本が発射。僕は「“ブラックホール奥さん”と命名しよう」って茶化すより他なかった。

 静香のパートが終わって入れたテロップは、
 

心の中の空洞を
セックスで埋めようとする人たち
その方向は間違っていない
心が満たされるセックスが
見つからないだけのこと



 さて、日も所も変わって、2人目の主婦は夕紀。「男性経験がほとんどないので、このまま女を終わってしまうのは……」と言う。夫婦仲はいいものの、「主人も女性経験がほとんど……私より……私で2人目みたいなので」だそうである。セックスもワンパターンで満たされていないようなのだ。

 はたして夕紀は、心も満たされるセックスができるのか? それとも“ブラックホール奥さん”と化してしまうのか?

 当時はレディースコミックが広く読まれていて、その影響からか、上品そうな夕紀も、目かくしされたまま男3人からの愛撫を望んだ。

 男優は、片山邦生、佐川銀次、そして平本の3人。淫らな格好で男たちに舐めまわされ、羞恥と快感に悶える夕紀に、最初は銀次が挿入する。次に片山。最後が平本。ところがである、男たちが全員イッても、夕紀はまだイカない。それは静香と同じなのだが、ひとつだけ違ったのは、ある発見が夕紀にはあったことだった。

 平本としているときのことをふり返って、彼女はこう言った。「今まであんまり気づかなかったんだけど、責めてるときに女の歓びみたいな……感じてくれてることに私も欲情して……」。「男の声を聞いてて愛液が出てくる?」と茶化し気味に訊いたら、「うん、気持ちいい」と答えた。

 別棟に待機している男優たちに伝えると、片山は「たしかにそう思いますね」と言う。平本も「あそこがいちばんエロかった」とうなずくのだった。

 夕紀は再び平本とまみえることになる。平本への愛撫から始まるのだが、恋人を見つめるような眼差しには愛情が感じ取れる。彼女は明らかに先ほどと変わっていた。「シックスナインしよ!」と顔に跨り、咥え焦らすと、平本もヨガり悶える。彼がヨガることで、夕紀は安心する。彼女が本能的になるためには、この安心こそが必要なのである。「気持ちいい?」「ここ?」と夕紀は言葉でもリードしながら、自らが欲情してゆく。

 2人が共鳴した後半、結合部を見せることが求められるアダルトビデオにおいては認められない体位を平本が取る。正常位のとき、夕紀の両脚を閉じさせたのだ。だが、股を閉じることでピストンしながらクリトリスへの刺激が生まれる。

 夕紀は「このままして!」「このままして!」と何度も訴えながら高まっていく。やがて彼女は感極まって「イクーッ! あ~イッてる、イッてる」と自分に言い聞かせるようにして絶頂に達する。男と抱き合ったままの体位で、生まれて初めてのオーガズムを迎えたのだ。目を見つめ合っているのにイケないというカップルには、ぜひオススメしたい体位である。

 クリトリスを刺激するのも、重要といえば重要なのだ。ミラーニューロンは体験を通して育っていくと言われているが、クリトリスの快感を借りてでも、見つめ合い交わった状態でイクことを脳が学習すれば、だんだん中でイケるようになるからである。

 「セックスして感動したのって初めてで、すごい今、満たされているって言うか、なんて言えばいいのか……すごいうれしい!」。終わったあと、夕紀はそう言って平本に抱きついた。

 2001年、女たちはレディコミの影響を大いに受けていた。今はどうだろう? 「セックスに愛情など求めないほうがいい」、「オーガズムに幻想を抱いてはいけない」、「自分を明け渡さない女がモテる」といった記事が近年目につく。セックスを重くとらえなければ、セックスで傷つくことも少なくなるのかもしれない。だが本当にそれでいいのか、そこに希望はあるのだろうかと僕は思ってしまう。

 愛情が伴わない、相手の体を使ったオナニーのようなセックスでは、いつしか快楽の奴隷となり、それは終わりのないブラックホールと化してゆく。快楽を目的にすれば、新たな刺激がないと、新たな相手を見つけないと、マンネリ化が起こるからだ。けれども感情が共鳴し合ったとき、人はセックスで体も心も満たされる。「もっと!もっと!」には決してならない。この作品はそんなことを教えてくれるのである。