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女性に読んでほしいコラム


第76章 たかがSEX されどSEX

 「たかがSEX されどSEX」というシリーズを10本撮った。そのうちの1本、今回ご紹介する作品は「イクってどういうこと?」がテーマである。

 それまで僕は、ビデオで女性たちが本当にイクところを撮りたいと思ってずっとやってきた。それがひとつの“見せ場”であるのもさることながら、オーガズムに至れば、その後の人生が変わるくらいの気づきを人は得るものだということを現場で幾度も目の当たりにしたからである。ところがこの作品を撮ったころ、果たしてそれでいいのだろうかと僕は思い始めていた。

 出演しているのは、ソープ嬢の綾音(26歳)と国際会議で通訳をしている映子(年齢不詳)。社会的に見たら2人の住んでいる世界はまったく異なる。ある意味対極に位置するようなこの2人が、それぞれセックスをどうとらえているのか興味があった。

 さらに2人、体験ADとして女の子をキャスティングした。ネイルアーティストの美喜(28歳)と女子大1年のめぐみ(18歳)である。彼女たちは「ザ・面接」のエキストラのような立ち位置だ。第三者としての視点を設けることで、見る人もこの子たちの目を通して起きていることを見られるのではないかと思った。ただし、彼女たちは単なる傍観者ではない。始まる前、2人には「もし現場でセックスがしたくなったら、それもありだからね」と伝え、「でも、してほしいというわけじゃないからね」と付け加えた。

 男優も同じく2人。平本一穂と戸川夏也。彼らは同い年だが、男優歴は平本のほうが長い。僕との仕事もけっこうやってきている。オーガズムが何であるか、イカせようと思ったらセックスが手段になるなど、深いところを体験を通して理解している。一方、戸川はアマチュアレスリングで鍛えた肉体を持ち、見た目も精悍だし、モノも立派だし、持続力もある。女はイカせればいい、それがビデオの醍醐味だという仕事をしてきていて、僕との仕事はそれほどなかった。レスリング同様、セックスも勝ち負けみたいところで考えている。女の子ばかりでなく男優も対極の2人なのである。こうして撮影は2泊3日、千葉の山荘にて行なわれた――。

 作品は女の子たちのコメントから始まる。「イッたことがないから、イクってことがよくわからないんですけど……」と体験ADのネイルアーティスト。「私もよくわかんないな」と国際会議通訳者。ソープ嬢は「どこからどこまでがイクなのか、自分でも把握できてない」。「あなたもそれが知りたい?」と体験ADの女子大生に訊くと「そうですね」と目を輝かせた。

 4人とも「イクこと」を知りたいわけである。これを男優2人に伝えると、戸川が「イク・イカないで勝負したら、僕に勝てるわけないですもんね!」とさっそく平本に宣戦布告する。戸川にしてみれば、そんなのお茶の子さいさいといったところか……。

 初日の夜、その戸川がソープ嬢の綾音とセックスする。ワイルドでパワフルな戸川に欲情し、綾音は感じ乱れる。セックスが終わって、彼女が訊いた。「ちょうどカリのところがね、そこそこと思うとホントにそこそこって突いてくるの。なんでわかるの?」。ところが戸川は「イッてないでしょう」と冷ややかな言葉をぶつける。「こんなになってるのに?」と乱れたままの寝姿で綾音は問うが、「そんなにベラベラしゃべれないよ、ホントにイッたら」と突き放してしまう。綾音の心には気まずさだけが残ったはずだ。体験ADたちは事の成り行きを感じながらも、事後の始末など与えられた仕事を淡々とこなしている。

 次に、国際会議通訳者の映子と平本のセックス。前の2人に比べて地味だが、情感に溢れていた。取り残された気分の綾音と体験AD2人が凝視するなか、フィニッシュは平本が大いに声を出してイッた。その後も映子は愛しい人を見るような眼差しで平本から目を離さない。ここに音楽をのせた。セックスしているときよりも終わったあとのほうが、ずうっと音楽をのせられるくらい琴線にふれるシーンだったのだ。

 「これ、たしか『イク』がテーマでしたっけ?」と戸川。平本は「途中からどうでもよくなっちゃって」と笑う。「たしか平本さんが『イッちゃう! イッちゃう!』って……テーマどおりかなって」と戸川が皮肉る。

 それを聞いていた映子が口を開く。「でもなんか……うれしかった」。「うれしいとは?」と戸川。「うれしいエッチ、これがそうなんだなって思った」。「じゃあ、それがあなたにとってイクってことなのかな?」。戸川の質問に「テクニックとか、そういうこと以外にすごい大事なものがあるような気がして……精神的に充実するセックスが、私にとってはいちばんいいのかなと思いました」。映子の言葉をソープ嬢の綾音が聞き入っている。

 映子は、翌日、戸川とすることになる。激しいセックスをみんなが見守る。綾音だけは少し離れた所から……。終わったあと、「(平本さんも僕も)どっちもよかった?」と訊く戸川。映子は笑って答えない。映子の肩を抱き、戸川は布団をかぶって横になる。キスを求めるが、映子は顔を向けなかった。

 その日の午後、初日から平本に好意を寄せていた体験ADの美喜(ネイルアーティスト)を、平本が別棟の風呂場に誘う。2人が去ったあと、もう1人のADのめぐみ(女子大生)が「私もそうなっていたかもしれない」と言う。彼女もまた平本に魅かれているのだ。

 横になっていた映子と戸川がそのまま2回目のセックスを始める。これも激しい。フィニッシュのあと、全身の痙攣が治まらない映子を見て、「絶対イッたな、絶対!」と戸川。しばらくして素に戻った映子は、戸川に背を向けて羽織るものを引き寄せた。

 ADの美喜と平本が風呂場から戻ってくる。2人ともニマニマして、なんだか幸せそうだ。そのうえ美喜のほうはどこかスッキリしている。それを見たソープ嬢・綾音のつぶやきをカメラは拾っていた。「これから新婚旅行に行く2人みたい……」。そういうことのほうが大切なのだと彼女はだんだん気づいていく。

 めぐみがADとしてコンドームを2人のもとへ持っていく。平本はこのセックスでも先にイッてしまう。しかし、平本がイッたあとも2人は抱き合ったままだった。その様子をじっと見ていた映子の目が潤んでいる。昨夜、自分が心を奪われた相手がいまは別の女性と心を通わせている。それを間近に見せつけられたのだから、多少は嫉妬も湧くのかもしれない。ただ、それはあったとしてもわずかであり、うるうるしている原因の大半はおそらく違うものだと僕は思った。「悲しいとかじゃなくて、見つめ合ってる2人を見たら感動しました」。映子はそう言って微笑んだ。

 夜、コタツを囲んでそれぞれ思いを語った。みんなと少し距離を置いていた綾音は「せつなかった」と言ったものの、その理由は語らなかった。平本とまるで恋人同士のようなセックスを終えたばかりの美喜は「いままでしてきたことが、体と心が離れてた……というのがわかってきた」とうれしそうだ。映子は「いろんな状況を目にすることによって吹っ切れたっていうか、ま、いわば素直になったっていうか、いいカッコしたり、頭で考えたり、そんなふうなことをしなくて、心の動くままにしていいんだって状況がここにあったから……」と語った。

 夜遅く、めぐみと平本が並んで流しに立ち、楽しそうに洗い物をしている。その様子を微笑ましく眺めていた美喜が「邪魔しないほうがいいですかね?」と僕に訊いてくる。めぐみは今回4人のなかでただ1人見る側だけにいた。平本に魅かれながらも……。洗い物を終えた彼女に「化粧をしろ!」と僕は言った。ベテランのメイクさんが腕によりをかけてめぐみに化粧をほどこす。そうして奥の座敷にいる平本と2人きりにした。

 めぐみのセックスが始まると、それを見ていた綾音が再び戸川と始める。他の3人はもう誰も戸川に興味を示していないというのに……。綾音は、セックスってこういうことなんだというのがわかって、平本や彼女たちと同じようになりたかったのではないか。最初に行き違ってしまった戸川とともに。

 まだ戸川はイカせることにこだわっていたが、最後は綾音に抱きついた。綾音は最初のセックス以上に甘え、腕に巻いていたタオル地のヘアバンドを取って戸川の汗を拭いてやっている。そこに彼女の心情が表われていた。それを黙って受けながら、戸川は何を感じているのだろうと僕は思った。

 平本とのセックスが終わっためぐみに訊く。「イクことに関してはどうですか? 『イクってどういうことなの』『どうしたらイクの』って最初こだわっていたじゃない?」。すると彼女はこう答えた。「なんか関係ないかもしれない……かなって思った」。「どうでもいいの?」と平本が訊くと、「どうでもいくはないかもしれないけれど、べつにイケなくても幸せだったらそれでいいかもって思った」。めぐみのこのコメントが作品の最後の言葉になった。

 当時、僕はこの作品に「イクことにこだわる女たち」というサブタイトルを付けた。そして冒頭にテロップを3枚入れた。いまふり返れば、この作品を通して何か感じるところがあったから、わざわざテロップを入れたのだろうと思う。テロップの中で「まぐわい」という言葉を初めて使ったのもこの作品だ。イクことにこだわっていたのは、じつは彼女たちばかりではない。この作品が僕のターニングポイントとなった。