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第29章 女が離婚を決意するとき

 「ザ・面接」で撮った主婦の話である。彼女は出演理由をこう語った。「出演料を離婚後の自立資金に充てたい」。聞けば2年前から離婚を考えているそうで、夫とは2年半セックスしていないらしい。夫は医師。20年前、彼女が准看護婦をしていたとき、同じ病院で知り合い、交際が始まり、結婚した。今彼女は40歳、思春期の子どもが2人いる。

 

 事前面接で催淫CDを聴かせると、途中で彼女は号泣した。とても聴いていられる状態ではないので、いったんCDを止めて、のちに最初から聴き直させたくらいである。催淫CDは催眠誘導でトランスへと誘(いざな)う。号泣についてはあえて突っ込まなかったけれど、心のフタが開いたのなら、現場も大丈夫だろうと僕は思った。

 

 「ザ・面接」を撮ってから1カ月半後、ふたたび僕は彼女にカメラを向けていた。1本撮って興味が湧いたので、別の作品でもう一度彼女を撮ろうと思ったのだ。カメラには1時間分のインタビュー映像が残されている。その一部を抜粋してみる。

 

 ――ビデオに出るとき、別れる決意というか決心はついてなかったの?

 

 「ひょっとしたら元サヤに戻れるかな、という感情もありました」

 

 ――「ザ・面接」に出て、そのあと何本かやって、それで決心は固まったの?

 

 「そうですね。なんかこの仕事が楽しかったんですね。今まで家にいたり、ちょっと気晴らしにパートに出てみたりしてたんですけど、それよりもこの世界って、自分が必要とされてなければ、お仕事ないじゃないですか。だから、自分の居場所というか存在価値みたいなのをそこに見いだしちゃって。だから家庭でダンナさんが自分のことを必要としてるよりも、自分をもっと必要としてる所があるんだっていうのを、最近じわじわと自覚しはじめて……」

 

 ――もう夫婦生活もなかったわけだよね。あなたのほうからは求めていかなかったんだ。

 

 「拒否されると傷つくのは自分だったんで。傷つきたくなかったんですね。まぁ、そのうちチョッカイ出されるのかなって。もし向こうから来たら拒むつもりはなかったんですよ」

 

 ――微妙だね。この夫婦の関係性というかさ。

 

 「そうなんですよ。いずれはなくなるもんだとは思うんですね。ただ、私、40だから……」

 

 ――四十(しじゅう)しざかり、って言うくらいだもんね。

 

 夫と2年半セックスがないことは前述したが、以前しているときでも、夫は彼女のアソコをツバで濡らし、入れて3分で終わったという。しかも、ベッドの上ではなく、ほとんどがリビングで立ちバックとか、床でとか。

 

 夫には別の女性がいるようだ。彼女も結婚後に3人と浮気している。相手は同級生とか昔の知り合いとかだが、まだ夫婦でセックスがあった時期にはのめり込んでいない。「自分を危うい立場に追い込みたくなかったから」と彼女は言う。

 

 ――よく離婚の原因が性格の不一致とかって言うけど、でも、あなたの場合はダンナさんが暴力をふるうとか、酒乱だとか、稼ぎがないとか、そういうことじゃないよね。

 

 「ホントに愛していたら自分も協力して……稼ぎがなかったら私もパートに出たりとか、酒乱だったら一緒に病院に行って治療するとか、なんかそういう手立てはある。暴力とかは時と場合によると思うんですけど。だけど、自分に対して興味がないっていう、そのどうしようもなさっていうか、『私は何なのですか?』っていうそこの寂しさ。かつて愛した人が目の前にいて一緒に生活してるのに、自分を女と思ってないというか……」

 

 インタビューの後半で、彼女は催淫CDで号泣したときのことを語り出す。

 

 「あそこで思い浮かべたのが、主人なんですよね。そしたら若いときの感情とか、すごく愛して、この人じゃないとダメだって思ったときの感情がいっぺんに出てきたんですよ。それで今、私は裏切ろうとしているわけじゃないですか。一瞬、後悔したんですね。私はこんなことしちゃいけないんじゃないかって。すごく好きな人は主人だから……。帰ったら主人に抱かれたいっていう気持ちがすごく湧いてきたんですよ。でも、やっぱりそのあとも抱かれることはなかったし、嫌いで別れるというより、私が主人にぶつかる勇気がないんですね。主人に女性の影があるっていうのもわかってるし、そんな感情の中で、そういうのを責めることもできなければ、私だけ見てって言う自信もない。だから私は私の道を行くっていう選択肢、行っちゃったわけで」

 

 インタビューの抜粋は以上である。さて、どうだろう? なぜ彼女は離婚するのだろうか?

 

 ここでポイントになるのは、催淫CDのトランスで表われた「夫」である。「若いときの感情とか、すごく愛して、この人じゃないとダメだって思ったときの感情がいっぺんに出てきたんですよ」と彼女は言っている。つまり、現在の夫ではなく、それは若いときの夫なのだ。

 

 医師と准看護婦(現在は准看護士に改称)。病院というヒエラルキーの中で、その2つにはどれほどの開きがあるだろう。20歳になるかならない准看護婦にとって、自分の結婚相手は単なる男ではなく「先生」なのである。そのインパクトを彼女はずっと引きずっているように見える。僕の場合も、つきあいはじめた頃、女房はすでに売れっ子女優だった。それにひきかえ僕は助監督である。だから、准看の彼女が最初に受けたインパクトの大きさはよくわかる。

 

 だが、その関係性が単なる男と女に戻ることは、ついぞなかったのではないか。そこには夫の側の原因もあるように思われる。彼に会ったことはないけれど、彼女の話から推測するに、やはり本能が成熟していない人のように見える。

 

 たとえば、ベッドではほとんどしないという彼のセックス。彼女は事前面接のとき、「いつも犯されているみたいで、愛されてる感じがしない」と言っているが、つねに一方的で、SM的であり、自分を上に置き、相手をモノ扱いしている。そこには、相手をいたわる気持ちがまったく感じられない。

 

 医者になる人が全員そうとは限らないけれど、彼の場合は幼い頃から親に厳しく育てられ、甘えたいときに甘えられなかったのかもしれない。医者になってからは、自分の人間性よりも医者という地位や肩書きが拠りどころとなっていたのではないだろうか。

 

 思うのだが、人間とはかくも誰かに「認められたい」と渇望する生き物なのだ。彼女がAVの現場で見つけたという"自分の居場所"。たしかにAVは女の子が主役である。どんな作品でも、その子の気分を壊さないように気をつかう。ひとカラミが終われば、それこそ助監督はバスローブを掛けてくれるし、メイクさんは化粧直しにやってくる。

 

 作品づくりのためにしているとはいえ、悪い気はしない。そればかりか、学生時代も社会に出てからも、自分1人がいなくても学校や会社がなくならないのはよくわかっているから、自分がいなければ成り立たない世界とは、まさに存在価値を証明してくれる場と言える。

 

 彼女は離婚の決意を僕が尋ねたとき、「家庭でダンナさんが自分のことを必要としてるよりも、自分をもっと必要としてる所があるんだっていうのを、最近じわじわと自覚しはじめて……」と答えている。その「ダンナさん」は、もともと病院の中に自分の居場所があったはずである。そして、病院内での立場をそのまま家庭に持ち込んだ。

 

 彼女の話から学ぶべきことがあるとすれば、男も女も"本当の自分"を出さないと、いつか別れがやってくるということである。恋愛に勘違いはつきものかもしれないが、虚像と結婚生活を送っていても、心はいつまでも満たされることがないのだから。